アトリビュートとは?宗教画を読み解くポイントを解説

正しいか間違っているかは別として、私は最善を尽くしましたが、これらは私の意見を表明しているだけです。

「アトリビュート」とは、美術において特定の人物を表す小道具を指します。特に聖書を題材とした宗教画では、暗黙の了解としてアトリビュートが用いられることが多いです。聖書の登場人物や聖人のアトリビュートを知っておくと誰が描かれているか特定しやすくなり、鑑賞体験がより深まりますよ。本稿では、聖書の場面が描かれた傑作をいくつか参照しつつ、有名なアトリビュートについて解説します。

目次

アトリビュートとは?聖書の有名なアトリビュート聖母マリア洗礼者ヨハネペテロマグダラのマリアダビデアトリビュートを探してみよう

 

アトリビュートとは?

「アトリビュート(持物、じもつ)」とは、描かれた人物が誰であるか特定するお約束のようなものです。
たとえば、聖母マリアは、赤い服の上に青いマントを羽織っており、百合の花がともに描かれている図像が多くあります。単に女性が描かれているだけでは誰だかわかりませんが、青いマントを羽織っていれば「マリアが描かれているんだな」とすぐわかりますね。
大人数が登場する絵画では、目当ての人物を見つけやすくなります。

ちなみに、英語のattribute(属性)の語源は、「割り当てられた」という意味を持つラテン語の”attributus”です。

《御子を崇拝するマリア》
サッソフェラート(1640-1660)
シュテーデル美術館, PDM 所有者, via Wikimedia Commons

中世以降のヨーロッパ社会において、絵画は文字の読めない人々に聖書の教えを布教する役割を果たしました。美術作品は「目で読む聖書」とも呼ばれ、民衆は、教会に飾られた絵や彫刻などを通して聖書の物語に触れたのです。

日本人にとっては、仏像の持物が親しみやすいのではないでしょうか。たとえば、薬壺を持っているのは薬師如来像、剣を持っているのは不動明王などなんとなくわかりますね。

 

聖書の有名なアトリビュート

アトリビュートを理解するには、その典拠となる聖書の記事を知るのが一番です。
実際に聖書の箇所を参照しながら、いくつかのキリスト教美術を見てみましょう。

聖母マリア

アトリビュート=百合、青いマントと赤い服

聖母マリアは青いマントと赤い服で見分けられます。
空や水の色である青は永続性や神秘性を連想させ、伝統的には貞節を示す色でもありました。マリアが処女でありながら聖霊によって身ごもったことを意味しています。また、赤色の服は神の慈愛を表しています。

純粋、純潔、無垢を表す百合も聖母マリアのアトリビュートです。マリアに受胎告知をする大天使ガブリエルは百合の茎を手にしており、転じてガブリエルのアトリビュートにもなりました。

受胎告知の一節を読んでみましょう。

六か月目に、御使ガブリエルが、神からつかわされて、ナザレというガリラヤの町の一処女のもとにきた。この処女はダビデ家の出であるヨセフという人のいいなづけになっていて、名をマリヤといった。御使がマリヤのところにきて言った、「恵まれた女よ、おめでとう、主があなたと共におられます」。
この言葉にマリヤはひどく胸騒ぎがして、このあいさつはなんの事であろうかと、思いめぐらしていた。
すると御使が言った、「恐れるな、マリヤよ、あなたは神から恵みをいただいているのです。
見よ、あなたはみごもって男の子を産むでしょう。その子をイエスと名づけなさい。彼は大いなる者となり、いと高き者の子と、となえられるでしょう。そして、主なる神は彼に父ダビデの王座をお与えになり、彼はとこしえにヤコブの家を支配し、その支配は限りなく続くでしょう」。
そこでマリヤは御使に言った、「どうして、そんな事があり得ましょうか。私にはまだ夫がありませんのに」。
御使が答えて言った、「聖霊があなたに臨み、いと高き者の力があなたをおおうでしょう。それゆえに、生れ出る子は聖なるものであり、神の子と、となえられるでしょう。あなたの親族エリサベツも老年ながら子を宿しています。不妊の女といわれていたのに、はや六か月になっています。神には、なんでもできないことはありません」。
そこでマリヤが言った、「私は主のはしためです。お言葉どおりこの身に成りますように」。そして御使は彼女から離れて行った。
(ルカによる福音書1:26-38)

受胎告知の場面では、マリアの感情が変化していくのが読み取れますね。はじめは恐れ戸惑っていたマリアですが、ただちに神の御心を受け入れて従います。画家によってマリアのどの心境を描いているかが異なりますので、表情に注目して見てみるのも良いでしょう。

《受胎告知》
レオナルド・ダ・ヴィンチ(1452–1519)

洗礼者ヨハネ

アトリビュート=毛皮の服

ヨハネはマリアの従姉妹エリサベツの息子で、イエスよりやや先に生まれました。洗礼者ヨハネはイエスに先立って人々に教えを説き、イエスに洗礼を授けます。

そのころ、バプテスマのヨハネが現れ、ユダヤの荒野で教を宣べて言った、「悔い改めよ、天国は近づいた」。預言者イザヤによって、「荒野で呼ばわる者の声がする、『主の道を備えよ、その道筋をまっすぐにせよ』」と言われたのは、この人のことである。
このヨハネは、らくだの毛ごろもを着物にし、腰に皮の帯をしめ、いなごと野蜜とを食物としていた。
(マタイによる福音書3:1-4)


《少年としての洗礼者聖ヨハネ》
アンドレア・デル・サルト(1486–1530)

アトリビュートは、砂漠での禁欲的な生活のシンボルである「毛皮の服」。長い十字架を持っていることもあります。
厳しい修行者といった風貌の洗礼者ヨハネですが、紅顔の少年や、魅惑的でミステリアスな青年として描かれることもあります。

ペテロ

アトリビュート=鍵、鶏

イエス・キリストの弟子であるペテロは、イスラエル北部ガリラヤ湖畔に住む漁師でした。漁をしていたところに、イエスに「人間をとる漁師にしてあげよう」と声をかけられ、兄弟のアンデレとともに使徒となります。

ペテロの代表的なアトリビュートは「鍵」です。マタイ による福音書に、イエス・キリストにより天国の鍵を授与される記事があります。

そこでイエスは彼らに言われた、「それでは、あなたがたは私をだれと言うか」。
シモン・ペテロが答えて言った、「あなたこそ、生ける神の子キリストです」。
すると、イエスは彼にむかって言われた、「バルヨナ・シモン、あなたはさいわいである。あなたにこの事をあらわしたのは、血肉ではなく、天にいます私の父である。
そこで、私もあなたに言う。あなたはペテロである。そして、私はこの岩の上に私の教会を建てよう。黄泉の力もそれに打ち勝つことはない。私は、あなたに天国のかぎを授けよう。そして、あなたが地上でつなぐことは、天でもつながれ、あなたが地上で解くことは天でも解かれるであろう」。


《聖ペテロへの天国の鍵の授与》
ピエトロ・ペルジーノ(1448–1523)

ペテロはローマ帝国の皇帝ネロのキリスト教徒迫害下で逆さ十字架にかけられ殉教したとされていますが、カトリックでは、このペテロを初代教皇と位置付けています。ローマのカトリック総本山であるサン・ピエトロ大聖堂は、「聖ペテロ」のイタリア語「サン・ピエトロ」に由来します。

また、「ペテロの否認」の記事から、雄鶏がアトリビュートとして描かれることもあります。


《ペテロによるイエスの否定》
カール・ブロック(1850)

するとペテロはイエスに答えて言った、「たとい、みんなの者があなたにつまずいても、私は決してつまずきません」。

イエスは言われた、「よくあなたに言っておく。今夜、鶏が鳴く前に、あなたは三度私を知らないと言うだろう」。
(マタイによる福音書26:33-34)

ペテロは外で中庭にすわっていた。するとひとりの女中が彼のところにきて、「あなたもあのガリラヤ人イエスと一緒だった」と言った。
するとペテロは、みんなの前でそれを打ち消して言った、「あなたが何を言っているのか、わからない」。
そう言って入口の方に出て行くと、ほかの女中が彼を見て、そこにいる人々にむかって、「この人はナザレ人イエスと一緒だった」と言った。
そこで彼は再びそれを打ち消して、「そんな人は知らない」と誓って言った。
しばらくして、そこに立っていた人々が近寄ってきて、ペテロに言った、「確かにあなたも彼らの仲間だ。言葉づかいであなたのことがわかる」。
彼は「その人のことは何も知らない」と言って、激しく誓いはじめた。するとすぐ鶏が鳴いた。
ペテロは「鶏が鳴く前に、三度わたしを知らないと言うであろう」と言われたイエスの言葉を思い出し、外に出て激しく泣いた。
(マタイによる福音書26:69-75)

マグダラのマリア


《悔悛するマグダラのマリア》
ミケランジェロ・メリージ・
ダ・カラヴァッジョ 1571–1610)

アトリビュート=香油壺

マグダラのマリアは元娼婦の罪深い女性で、イエスに会って悔い改めたとされています。聖書にはマリアと呼ばれる人物が複数登場しますが、その中でもマグダラのマリアと思われる女性は、福音書によって描かれ方が異なります。さまざまな解釈が融合して、「罪深い女」のイメージができあがったと考えられます。

アトリビュートは「香油壺」です。
香油とは、ナルド(スパイクナード)という高山植物から抽出する精油で、当時のイスラエルでは非常に高価なものでした。マリアは十字架に向かうイエスのために高価な香油を捧げたのです。

あるパリサイ人がイエスに、食事を共にしたいと申し出たので、そのパリサイ人の家にはいって食卓に着かれた。
するとそのとき、その町で罪の女であったものが、パリサイ人の家で食卓に着いておられることを聞いて、香油が入れてある石膏のつぼを持ってきて、泣きながら、イエスのうしろでその足もとに寄り、まず涙でイエスの足をぬらし、自分の髪の毛でぬぐい、そして、その足に接吻して、香油を塗った。
(ルカによる福音書7:36-38)

ルカによる福音書では、単に「罪深い女」とされ、マリアという名前は登場しません。一方、ヨハネによる福音書では、死んだ兄弟ラザロを蘇らせてもらったベタニアのマリアがイエスに香油を注いでいます。

ダビデ

アトリビュート=投石器、剣、ハープ(竪琴)

ダビデ(紀元前1040年-紀元前961年頃)は古代イスラエルの王で、その活躍は主に旧約聖書のサムエル記に収められています。
ダビデは竪琴の名手でした。詩篇にはダビデの名を冠するものが多くあり、芸術の才に秀でていたことが窺われます。

神から出る悪霊がサウルに臨む時、ダビデは琴をとり、手でそれをひくと、サウルは気が静まり、良くなって、悪霊は彼を離れた。
(サムエル記上16:23)


《ダヴィデとサウル》
アーンシュト・ユーセフソン(1851–1906)

また、巨人ゴリアテを投石器一つで倒したというエピソードから、投石器もアトリビュートとなっています。ミケランジェロによる有名なダビデ像は、投石器を左にかけてゴリアテに狙いを定めている瞬間を表現しています。


《ダヴィデ》
ミケランジェロ・ブオナローティ(1475-1564)
 

ちなみに、トランプのスペードのキングのモデルとなっているのもダビデ王。フランスの王政復古後の時代にこの絵柄が定まったようです。手に持っている剣は、ゴリアテを倒した後にその首を切り落とした剣です。竪琴を手にしているカードもありますよ。

 

アトリビュートを探してみよう

絵画において人物と特定するための小道具であるアトリビュート。典拠を読むとなぜその道具が割り当てられているのかわかり、より宗教画を興味深く鑑賞できますよ。みなさんもぜひアトリビュートを見つけてみてください。

参考文献:
宮下規久朗(2007)『カラヴァッジョへの旅 天才画家の光と闇』角川選書
宮下規久朗(2010)『カラヴァッジョ巡礼』新潮社
コンスタンティーノ・ドラッツィオ/著、上野真弓/訳(2017)『カラヴァッジョの秘密』河出書房新社

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