ルカ文書の執筆年代

聖書に出てくる用語、クリスチャンが使う用語を説明しています。 ヘブル的視点で解説されていますので、すでにクリスチャン歴が長い方にも新しい発見があるかもしれません。

昨年秋から、クリスマス前後の休みを挟んで8週間にわたって開講されたeラーニング「ルカが語る福音の物語」の講座が先日無事終了しました。40人ほどの方々が受講してくださいました。オンラインのディスカッションを通して、私自身ルカ文書についての理解を整理できたり、新たな気づきを与えられたりして、とても有意義な時を過ごすことができました。あらためてGrace-onlineと関係者の皆様にはお礼を申し上げます。

講座の中で配布した資料の中から、ルカ文書の執筆年代について書いたものを、多少修正の上ここに掲載します。

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聖書の各書巻の執筆年代については、正確な数字をピンポイントで確定できず、人によって意見に幅のあることが多いです。注解書などに書かれている年代はあくまでも学者による推定(educated guess)に過ぎないことに留意し、断定的な態度を取らないことが重要です。

ルカ文書については、執筆年代のおおよその下限と上限を設定することができます。まず、使徒の働きの記述は、パウロがローマに到着して2年間の軟禁生活を送ったところで終わっています(28章)。これが紀元62年頃のことになるので、使徒の働きは少なくともこれ以降に書かれたことになります。ルカ福音書は使徒の働きよりも先に書かれましたが、二つの著作の間にそれほど時期を置かない方が自然と考えられますので、ルカ文書が書かれたのは、最も早くて60年代初頭であると考えることができます。

他方、2世紀中頃にはルカ文書からの明確な引用を行っているキリスト教の文書がありますので、ルカ文書が遅くてもそのくらいまでには書かれたことは確実です。しかし、伝統的に考えられてきたようにルカ文書がパウロの同行者ルカによって書かれたとすると、2世紀に書かれたということはあり得ません。現代の多くの学者は、ルカ文書が80年代から90年代くらいに書かれたと考えていますが、保守的な学者はより早い時期、60年代に書かれたと考える人が多いです。

ルカ文書が60年代初頭に書かれたと考える人々は、ルカ文書が唐突な終わり方をしていると指摘します。ルカは読者が関心を持っていたと思われるパウロの裁判の結末や、彼の最期については何も記していません。ルカ文書はその他にも、60年代半ば以降に起こった重要な歴史的事件(ネロによるキリスト教徒迫害、ユダヤ戦争、エルサレムの滅亡など)についてはほとんど言及していないように思えます。これは、彼が2部作を書いたのが、使徒の働きの結末部で記されているできごとの直後であったことを示唆している、というわけです。しかし、ルカが2部作を書いた目的はパウロの伝記を記すことではなかったかもしれません。またルカが60年代半ば以降の重大事件について書かなかったからと言って、彼がそれらについて知らなかったということにはなりません(このような論法を「沈黙からの議論 argument from silence」と呼びます)。

まず大前提として、福音派も含め現代の聖書学者の大多数は、ルカ福音書はマルコ福音書を下敷きにして書かれており、したがって後者よりも後の時期に書かれ、使徒の働きはその後に書かれたと考えています。

さて、新約聖書の各巻の年代を推定する際に参考になる重要な事件は、紀元70年にローマ軍によってエルサレムが陥落し、神殿が破壊されたできごとです。多くの学者はマルコ13:14以下の記述は70年のエルサレム滅亡について語っており、したがってマルコが福音書を書いたのは70年以降であると考えます。そうすると、ルカ文書が書かれたのはさらにその後ということになります。

しかし、イエスの未来予知能力を考慮に入れなかったとしても、当時の多くの人々は、60年代の後半にはエルサレムの滅亡は予想できていたと思われます。したがって、私自身はマルコ福音書は60年代後半に書かれたと考えています。ルカ文書はその後に書かれました。では、それは70年よりも前でしょうか、それとも後でしょうか?

私は以前はルカ文書が60年代初頭に書かれたと考えていましたが、今では70年代初頭に書かれたと考えるようになりました。その理由を述べるために、共観福音書におけるマルコ13:14-20の並行箇所を比較してみましょう。

マタイ24:1522マルコ13:1420ルカ21:202615  預言者ダニエルによって言われた荒らす憎むべき者が、聖なる場所に立つのを見たならば(読者よ、悟れ)、
16  そのとき、ユダヤにいる人々は山へ逃げよ。
17  屋上にいる者は、家からものを取り出そうとして下におりるな。
18  畑にいる者は、上着を取りにあとへもどるな。
19  その日には、身重の女と乳飲み子をもつ女とは、不幸である。
20  あなたがたの逃げるのが、冬または安息日にならないように祈れ。
21  その時には、世の初めから現在に至るまで、かつてなく今後もないような大きな患難が起るからである。
22  もしその期間が縮められないなら、救われる者はひとりもないであろう。しかし、選民のためには、その期間が縮められるであろう。14  荒らす憎むべきものが、立ってはならぬ所に立つのを見たならば(読者よ、悟れ)、そのとき、ユダヤにいる人々は山へ逃げよ。
15  屋上にいる者は、下におりるな。また家から物を取り出そうとして内にはいるな。
16  畑にいる者は、上着を取りにあとへもどるな。
17  その日には、身重の女と乳飲み子をもつ女とは、不幸である。
18  この事が冬おこらぬように祈れ。
19  その日には、神が万物を造られた創造の初めから現在に至るまで、かつてなく今後もないような患難が起るからである。
20  もし主がその期間を縮めてくださらないなら、救われる者はひとりもないであろう。しかし、選ばれた選民のために、その期間を縮めてくださったのである。20  エルサレムが軍隊に包囲されるのを見たならば、そのときは、その滅亡が近づいたとさとりなさい。
21  そのとき、ユダヤにいる人々は山へ逃げよ。市中にいる者は、そこから出て行くがよい。また、いなかにいる者は市内にはいってはいけない。
22  それは、聖書にしるされたすべての事が実現する刑罰の日であるからだ
23  その日には、身重の女と乳飲み子をもつ女とは、不幸である。地上には大きな苦難があり、この民にはみ怒りが臨み、
24  彼らはつるぎの刃に倒れ、また捕えられて諸国へ引きゆかれるであろう。そしてエルサレムは、異邦人の時期が満ちるまで、彼らに踏みにじられているであろう。
25  また日と月と星とに、しるしが現れるであろう。そして、地上では、諸国民が悩み、海と大波とのとどろきにおじ惑い、
26  人々は世界に起ろうとする事を思い、恐怖と不安で気絶するであろう。もろもろの天体が揺り動かされるからである。

ルカは共観福音書の中でエルサレムの破壊についてもっとも詳しく書いています。マルコ13:14以下の並行箇所はルカ21:20以下に見られますが、ルカはマルコやマタイのような漠然とした患難についての記述ではなく、エルサレムの包囲と陥落を具体的に述べています(20、24節など)。

ここで興味深いのは、ルカがマルコ13:18「ただ、このことが冬に起こらないように祈りなさい。」を削除していることです(マタイは少しの修正を加えてこれを保持しています)。これは、エルサレムの滅亡が70年の夏に起こったことをルカが知っていたためと思われます(このことについて、David deSilvaの議論が参考になります)。ルカがマルコ13:20にあるような仮定表現(「もし主がその期間を縮めてくださらないなら、救われる者はひとりもないであろう。」)を削除しているのも、このことを裏付けます。

この他にも、四福音書の中でルカだけがイエスがエルサレム入城前に都のために泣かれたことを記しています(ルカ19:41-44)。その中でイエスは都の滅亡を予言し、その理由についても語っています。これもまた、ルカがエルサレムの滅亡を知っていたことを暗示しています。

エルサレム神殿の略奪(ティトゥスの凱旋門のレリーフ)(photo via Wikimedia Commons)

 

これらの理由により、ルカ福音書が書かれたのは70年以降と思われます。これはイエスの未来予知能力を否定しているということではなく、ルカが同時代の読者に対して、エルサレムの滅亡とその理由をよりはっきりと伝えるためにマルコのテクストを編集したということです。

ルカ文書が70年以降に書かれたとして、どのくらい後に書かれたのでしょうか? Craig Keener もルカ文書が70年以降に書かれたという立場を取りますが、彼はその中でも早い年代(70年代中頃)を考えています。Keenerによると、パウロを弁護するというルカの目的は、彼の殉教後時間がたっておらず、彼の評価が教会内でまだ確定していない時期にふさわしかったでしょうし、エルサレムの破壊の記憶はまだ生々しかった時期に、なぜ神の都が滅亡する必要があったかを説明する目的があったということです。私はさらに、ローマの圧倒的な軍事力の威力に動揺した異邦人クリスチャンを安心させる目的もあったのかもしれないと考えています。

以上の考察から、ルカ文書は70年代の初頭に書かれたと私は考えていますが、冒頭に書いたように、これはあくまでも一つの推測にすぎず、決定的なものではありません。大切なポイントは、たとえ保守的な神学的立場をとるとしても、ルカ文書の執筆年代を70年代以降に設定することは十分可能だということです。

 

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