東京基督教大学 学長 山口陽一
小著『近代日本のクリスチャン経営者たち』(二〇二三年、いのちのことば社)にちなんで、「信仰のバトンを受け継いで」という文章を依頼されたので、わが家のことから書いてみます。
曾祖父からの信仰
私は、群馬県北西部の吾妻郡東吾妻町に商家の十四代目として生まれました。曽祖父・六平は一八八五(明治十八)年に前橋で海老名弾正から受洗、翌年、海老名を招いて家族が洗礼を受けました。六平は一八七三(明治六)年に群馬県で三番目の小学校を有志と共に設立。一八七七年には牧場を設け、八一年には吾妻精糸会社を設立して生糸の輸出を試みます。八二年に県会議員、八六年には県会副議長となり、渋川から鳥居峠を越える上信鉄道の敷設を企てました。しかし、牧場は十年程で経営困難になるなど、実業家としてはことごとく失敗しました。
築二五〇年の建物で
祖父母は商売に加えて地域の特産品をめざして吾妻木工所を営みます。ナチスの迫害を逃れ一時高崎に住んだ建築家のブルーノ・タウトがこの木工所を視察し、細やかな観察を「日記」に記しています。その後は地域文化の振興を願って新刊書店を営みましたが、二〇〇三年で閉店しました。
ところが二〇二一年にブックカフェ(朝陽堂・https://choyodo-web.studio.site/)として復活し、築二五〇年の建物は昨年NHKの番組で紹介されました。よく続いたと思います。人の想いを超えて受け継がれたのは信仰のバトンでもあり、これが何よりの喜びです。
クリスチャン経営者への高評価
『近代日本のクリスチャン経営者たち』を書くきっかけは、土屋喬雄『続 日本経営理念史~明治・大正・昭和の経営理念』(日本経済新聞社、一九六七年)でした。
日本を代表する経済学者の土屋は、同書の半分の二四一頁をさいて、「キリスト教倫理を基本とする経営理念」を取り上げています。これは驚くべきことでした。クリスチャンではない著名な研究者の高い評価を、しっかり受け止めなければと思いました。
土屋が戦前において数少ない道義的実業家として取り上げたのが、森村市左衛門、波多野鶴吉、武藤山治、相馬愛蔵、大原孫三郎です。これに戦前のクリスチャン経営者たちを加え、四十人程を紹介しました。LIONの小林富次郎は信仰によって起業に成功した人、白洋舎の五十嵐健治は信仰と経営をみごとに貫き、廣岡浅子と森村市左衛門は経営に成功してから信仰に至ります。相馬愛蔵・黒光は若い頃の信仰を離れてしまいました。
クリスチャン経営者の成功だけでなく、信仰者としての生き方に注目し、さらに、キリスト教の社会事業と国際交流の支援者として、「日本の資本主義の父」渋沢栄一を加えました。
ユニークな経済人たちも
ヘボン伝授の目薬「精奇水」の岸田吟香、津田梅子の父・津田仙は、新しい産業の先駆者でした。湯浅治郎は第一回帝国議会に選出され、警醒社を興し同志社を支えました。
地域に目をとめると、岡山の大原孫三郎は石井十次の岡山孤児院の支援者です。岸田吟香、津山の森本慶三、上海内山書店の内山完造などユニークなクリスチャンの経済人が岡山から出ています。青森県の長谷川誠三は藤崎銀行を創立し、東奥義塾を再建、弘前女学校、弘前学院を創立、野辺地での雲雀牧場の経営、秋田県小坂鉱山の開発、日本石油の創設にも参画し「津軽の産業王」と称されました。
札幌では、「巨商街」とよばれた目抜き通りにクリスチャンが経営する店舗が十九もありました。「北海道百年」の折、北海道開拓功労者二三五人が選ばれますが、その二割の四十二人はクリスチャンでした。
実業者たちの言葉の重み
実業人たちの信仰の言葉にも注目しました。大同生命の廣岡浅子は、「キリストに救われてここに十年、単にわが身の安心立命をもって足れりとせず、国家、社会の罪悪をその身に担うてこれと闘うにあらざれば、真に十字架を負うてキリストに従う者にあらざるを悟り、人を恐れず、天の啓示を仰いで、忌憚なき叫びを挙げたものであります」と述べ、ノリタケ、TOTOの森村市左衛門は、「詰まる所他人の利益、他人の為になると言う事を常に心に懸けて居れば必ず儲かるのです」と商売の秘訣を語り、「自分は一生の中に何も成功しないが、晩年基督教徒になったことが唯一つの成功だ」と回顧します。
商売に成功して信仰を失った森永太一郎は悔い改め、「我は罪人の頭なり」と全国を回って証しし、青山霊園の墓には「罪人の中我は首なり」と刻んでいます。
十字屋の山藤捷七、白洋舎の五十嵐丈夫、パイオニアの松本望、丸留建設の鈴木留蔵、山崎製パンの飯島藤十郎、ヤマト運輸の小倉昌男、中嶋自動車の中嶋栄三、資生堂の池田守男、創世グループの野田新弼など、次の世代の実業家たちの信仰も書いてみたいと思います。
関連書籍
『近代日本のクリスチャン経営者たち』
山口陽一 著
B6判 92頁 定価1,100円(税込)
20人以上の近代日本のクリスチャン経営者の足跡をコンパクトにまとめて紹介。未知の分野を果敢に切り開いた姿は、閉塞してしまった現代を生きる人々に、新たなスタートへの示唆を与えてくれる。
『知られなかった信仰者たち
耶蘇基督之新約教会への弾圧と寺尾喜七「尋問調書」』
川口葉子、山口陽一 共著
四六判 96頁 定価990円(税込)
自分たちの信仰を一切書き残さず、わずかな手紙と口伝のみでしか知る手立てのなかった「森派(耶蘇基督之新約教会)」。戦時下唯一残された寺尾喜七の「尋問調書」から、歴史に隠された信仰者の“弾圧の記憶”とは。
新刊
『梅子と旅する。
日本の女子教育のパイオニア』
フォレストブックス編集室 編
四六変型判 96頁 定価1,650円(税込)
新五千円札の顔・津田梅子の生涯とスピリットを取り上げる。人はなぜ学び、どう生かし、何のために生きるのか。女子高等教育に生涯を捧げた梅子が、今を生きる私たちに残したものを探す旅へ。
『写真で訪ねる信仰遺産
日本キリスト教史の夜明け』
伊東泰生 写真 熊田和子 文
B5変形判 63頁 オールカラー 定価1,540円(税込)
日本各地のキリスト教関連遺物を、写真を大きく使いながら解説。月刊「百万人の福音」の連載を1冊にまとめたもの。新たな取材も加え、充実した内容をもとに先人たちの遺した福音の軌跡をたどる。
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